「トランキーロ」の放つ期待感 ~新日本プロレス内藤哲也は何故ファンに支持されたのか~

書きたい事を書くブログなので、話題が散らかりまくりだけど、今回はプロレス。先ごろIWGP王者となった新日本プロレスの内藤哲也の「トランキーロ」について。

 

2016年の1月、ここ数年の新日本プロレスを引っ張ってきた立役者の中邑真輔、AJスタイルズの両名が退団。新たにのし上がってきたのが、1年前までファンからブーイングを浴び続けた内藤哲也だった。2015年の6月にヒールターン(いわゆる悪役化)を行った内藤に、ほんの1年前までブーイングを浴びせていたファンは彼に歓声を送る。

中邑、AJの退団はファンには唐突に映ったが、おそらく新日本はその意向は早くから知っていたと思われる。当然、このプロレスブーム(と言ってもいいと思う)を継続するためには、両名に替わるスター選手を作る必要があったわけで、そこで白羽の矢が立ったのが早くからスター街道に押し上げられながら、なかなかファンに支持されなかった内藤哲也だった。

彼が不人気だった理由はいくつかあるだろう。会社が推しすぎて嫌われたのも一つだし、試合展開も急ぎ過ぎて盛り上がりに欠けるのもあったかもしれない。が、個人的には支持されない一番の理由は「コメントが面白くない」ことだったと思う。ベルトに対する夢を熱く語っても、そこには刺激的な言葉もなくインパクトに欠けていた。しかも、彼はプロレスラーとは思えないほどハッキリとした言葉で喋り、滑舌が良すぎた。プロレスラーと言えば長州、藤波、天龍などはコメントの半分も聞き取れないほど滑舌が悪くモノマネのネタに度々されてきた。しかし、それが要素となり、コメントも含めた「プロレスラーとしての個性」が確立される。または、滑舌が良くても頭の回転が速く、状況に応じたコメントが出来れば、それはそれとして個性として認識される。真壁刀義などはその典型で、彼はファンが求めているだろうコメントを発して会場を盛り上げてきた。だが、内藤哲也はそれが出来ずにいた。

しかし、転機は2015年2月の大阪大会だった。何をやってもファンに強烈なブーイングを浴びた内藤は試合後に「プロレスをずっとやってきて、頭をよく打ってるんで、俺には大歓声にしか聞こえなかったですね」と言ってのけた。ずっとコメントがしょっぱいと思っていた自分も、これにはシビれた。「ブーイングなんて関係ない!俺は俺の道を行く」なんてコメントを出すものだとばっかり思っていたので、こんなに上手い切り返しが出来るなんて予想外だった。ここで、新日本プロレスは内藤のヒールターンを考えたのかもしれない。

2015年5月、内藤はメキシコに渡り、日本語で制御不能という意味を持つと言われる”ロス・インゴベルナブレス”に加入し、1か月後、日本に帰ってきた。帰国した内藤は本体とは距離を置き、予測不能な行動をし始める。たった1ヶ月程度でレスラーとしての技量が上がるわけではないが、「制御不能」という名のもとに何をしても許されるという空気感を作ることに成功した。そして、その決めゼリフとして「トランキーロ」と発するようになる。「焦るなよ」と言う意味のこの言葉は内藤の行動を後押しするものとしてファンに認知されていく。

この「トランキーロ」とは便利な言葉で、いくら試合内容がしょっぱい(プロレス用語で「つまらない試合」の意味)ものだろうが試合後に「トランキーロ」といえば、わざとしょっぱい内容で攪乱しているのではないかという推測もされる。そして「焦るなよ」という言葉の裏側には「この先には凄いモノが待ってるぜ」という期待も抱かせることになり、彼の行動から目が離せなくなるのだ。彼のこの立ち振る舞いに、最初は懐疑的な目を向けていたファンも徐々に支持し始める。「トランキーロ」と言い続けることによって、ブーイングを浴びせていた観衆も、会場では次第に彼に対する期待感を抱くようになってく。リング外での立ち振る舞いが変われば、試合内容も変わる。急ぎ過ぎていた試合展開も、のらりくらりと相手を焦らすことを覚えた。そして、勝負どころでは一気にテンポアップして相手を仕留め、メリハリがついた試合内容で魅せれるようになっていく。自分は昨年秋、新日本プロレス広島大会を観戦したが、その時には既に会場は内藤哲也を支持していたように思えた。いつの間にか「トランキーロ」は新日本プロレスで大きな存在となっていったのだ。

長きにわたり棚橋、オカダ、中邑、AJで廻してきたIWGPのベルトも、そのうち二人が退団するとなればずっと棚橋、オカダで廻すわけにもいかないし、いつまでも代わり映えがしなければ閉塞感も生まれる。そんななか、今回IWGPを内藤が獲ったのは当然の成り行きといえば当然だ。しかし、そこには以前にあったような「会社が無理矢理推している」といった感じは殆ど感じられない。ここに来て、彼のプロレスラーとしての個性の樹立と、ファンの支持の足並みが揃ったのだと思う。

早速、6月の大阪大会では前王者オカダとの再戦が組まれた。もし、仮に負けても「トランキーロ」と言えば、それがどんな試合内容でも次につながっていく。そういう意味では「トランキーロ」は未来へと続く「to be continued」と同意義なのかもしれない。

2016.12.30 追記

この記事を書いたのは今年5月の事だったが、6月に内藤はオカダに敗れベルトを失った。しかし内藤哲也は選手としての価値を全く下げることなく、9月にはインターコンチネンタル王座を奪取。12月には2016年プロレス大賞を受賞した。

IWGP王者としてベルトを巻いていたのは僅か2ヶ月余りだったが、彼がプロレス界に与えたインパクトを考えれば文句なしの受賞と言ってもいいだろう。ロスインゴベルナブレスデハポンは完全にファンに受け入れられ、内藤哲也は勝敗を超越した存在となった。この状況はプロレスラーとして最高の状態。試合に敗れようが価値を下げることが無いのだから。今年9月、新日本プロレス広島大会に足を運んだが、定番のTシャツは多くのファンが着用していた。

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そして内藤哲也は2017.1.4東京ドームでインターコンチネンタル王座をかけて棚橋弘至と闘う。新日本のエースとしての象徴的存在である棚橋弘至と、どんな闘いを見せてくれるのだろうか。否が応でも期待は膨らむが、そんなファンの気持ちをよそに彼はいつものように、こう言うのだろう。

「トランキーロ!焦っんなよ!」と。

つくづく汎用性の高い言葉だ。

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